医療安全管理指針

医療安全管理に関する基本的な考え方
医療事故を防止し医療の安全を確保するために、本院における医療従事者(全職員のことをいう)は、以下のような事項を共通の認識としなければならない。
1)常に危機意識を持ち業務にあたる
医療行為は不確定要素が多く存在し、常に危険と隣り合わせにある。医療従事者はこの危険性を十分認識し、医療事故はいつでも起こり得る、人はあやまちを犯すという危機意識を持ち業務にあたることが肝心である。
2)患者本位の医療に徹する
すべての医療行為、医療システムを患者中心・患者本位のものとする。医療側の都合のよいようなシステムが作らない。患者本位の医療は、医療の質を高めるとともに、医療機関の将来への発展を約束する。ただし、医療行為の質を損なうおそれのある場合は、これらを十分勘案してシステム構築にあたる。
3)全医療行為において、確認・再確認を徹底する
すべての医療行為を行うに際して、事前に複数の者で確認すること。また、口頭指示は必ず復唱し、必要に応じ指示書により確認するチェック&サインシステムを導入する。さらに、業務遂行の過程で疑問を持ったまま医療行為を行わない。
- 当たり前のことが当たり前に出来ない
- 不確実な知識のままの対応
- 患者情報の確認不十分
- 自分の行動に対する甘さ
- 複数人、複数回のチェック体制がない
- 指示の復唱などのルールがあっても守られていない
4)コミュニケーションとインフォームドコンセントに配慮する
医療紛争の最大要因はコミュニケーション不足であり、インフォームドコンセント不足であることを認識する。患者の知る権利、拒否する権利、自発的同意を重視する。どんなに説明しても、患者は素人で十分理解できないなどと考えない。
医療行為に当たる医師は緊急を要し時間的余裕のない等の特別の場合を除き、患者が当該治療を受けるかどうかを判断決定する前提として
- 患者の現症状とその原因
- 当該医療行為を採用する理由
- 治療行為の内容
- それによる危険性(不利益)の程度
- それを行った場合の改善の見込み
- 改善の程度
- 当該治療行為をしない場合の予後
などについて出来るだけ具体的に説明する義務があることを念頭におく。また、患者とのコミュニケーションのみでなく職員間のコミュニケーションを図らなければならない。差別のない人間関係、自由に発言・報告できる・問責しない環境が、報告文化を育成し安全文化の醸成につながることを銘記する。
5)診療録などは正確かつ丁寧に経時的に記載する
診療録をはじめとする医療に関する諸記録の正確な記載は、事故の防止に役立つのみならず、万一事故が発生し訴訟になった場合の唯一の証拠であり、口頭答弁は何ら証拠となり得ない事を認識する。医療訴訟の場で最も重視されるのは「診療録の不備」である。記録は正確かつ丁寧に記載する習慣をつけることが重要であり、アクシデントなどの原因究明の観点からも正確な記載は必要である。なお、訂正等が発生した場合、修正液は使用せず二重線にて訂正する。また、保険診療においては請求の根拠であり、算定要件が満たされているかが重要である。療法処置欄における算定項目の記載のみで症状・所見の記載のない診療録については、「忙しかったから」「面倒だから」という抗弁は理由にならない。
6)情報の共有化を図る
本院における医療安全管理委員会、医療安全対策委員会を中心にインシデント・アクシデント報告制度を有機的なものとする。各部門(全部署)で発生したインシデントやアクシデントについて報告システムを確立し、委員会で集積、分析、検討、対策を講じ、医療事故再発防止のために現場にフィードバックさせる。また、必要に応じ個々のマニュアルを作成する。報告に関しては、当事者を問責しない、自由に報告できる環境、すなわち報告の文化を育成することを目標とする。情報の共通化手段としては、単純な申送り、各部門での討議、事例集の作成・閲覧、議事録、院内LANなどを活用する。その際、患者などに関する個人情報の取扱いについては関連法規に基づき慎重に対処する。
7)医療事故防止への組織的、系統的な管理体制の構築
事故は起こり得るもの(To Err is Human)という前提に立ち、エラーが発生しないシステム、エラーが発生しても事故に結びつかないようなシステムを院内に構築することである。なお、その際、当該システムは、患者を中心とした部門間で整合性のとれたものとし、フローチャートにより図解するなど、できるだけ単純で分かりやすいものにする。
8)自己の健康管理と職場のチームワーク
本院内の医療従事者は、自分が身体的かつ精神的な健康管理に努めなければならない。アクシデント・インシデントの多くが、見落とし、見間違い、思い込み、取り違え、勘違い、確認不足、注意力低下などの注意散漫によるうっかりミス、いわゆるヒューマンファクターであり、その背景要因として個人の健康状態に問題があることが指摘されている。病院職員は、常に医療人であるという自覚をもって健康管理に努めることである。また、様々な医療トラブルの背景要因として、医療従事者間の連携も問題点として指摘されている。チーム医療はコミュニケーションそのものであり、情報の伝達など職員間の良好なコミュニケーションを図らなければならない。なお、こんな些細なことは報告する必要はない、といった独断的な判断も避けるべきである。
9)教育・研修体制の整備
インシデント・アクシデントの発生比率は、新人に比較的多く、また配置転換など職場が異動した時に起こりやすいといわれている。これら職員に対する、オリエンテーションの充実、マニュアルの徹底を指導する。また、知識不足・技量不足・経験不足も大きな要因である。医療事故防止のための教育のみでなく、医療技術・知識の習得のための生涯研修プログラムを作成すべきである。さらに、接遇教育も重要であり、接遇により発生するトラブルが多いことも留意しなければならない。職員全員を対象とした研修会を年2回以上開催し、職種を問わず医療安全に対する意識向上を図る。
10)上席者が率先して行う意識改革を行う
医療の現場では、上席者自身に、患者本位の良質で安全な医療の提供、報告文化の醸成、全職員による医療安全の確保、という姿勢で率先して医療安全に対する意識改革を行うことが要求される。相互交通の自由に発言・報告できる環境こそ医療事故防止につながる。また、個人を問責せず、誰がではなく組織としてなぜそうなったか、個人責任追及でなく原因追及の発想が安全文化を育てる。
医療安全管理体制
1)医療安全管理委員会および医療安全対策委員会の設置
当院における医療事故防止対策の充実および医療事故発生時における迅速な対応と医療安全管理体制の充実を図る目的で医療安全管理委員会を設置する。医療安全管理に関する意見を取りまとめ、医療安全対策について検討する。また、医療安全管理対策を実効あるもとのするため、組織横断的に医療安全管理を担う医療安全対策委員会を設置する。医療安全対策委員会の委員長もしくは副院長に病院内全体の医療安全対策推進の主任者として医療安全管理者を置く。各部門の医療安全管理に関する取組みを推進するリスクマネージャーを設置する。
1)委員会の機能
- 医療安全管理マニュアルの策定
- 事故報告・事例の集計・文責・評価・対策立案
- 医療安全管理のための人員の活用及び継続的な教育
- 業務の標準化等の推進および継続的な業務改善
- 医薬品の安全管理
- 医療機器安全管理
- 信頼の確保のための取り組み
- インフォームドコンセントの徹底
- 相談窓口の設置
2)重大なアクシデントが発生した場合の機能の見直し
万一重大なアクシデントが発生した場合の機能の見直し、改善策の検討として、必要に応じて医療事故例の原因究明・分析・評価、再発防止のための指導や教育、院内管理システムの見直し、改善策の検討を行う。また、発生した重大なアクシデントに対しては病院長を長とする医療事故対策委員会を緊急に設置・対応を協議する。
2)リスクマネージャーの配置
1)リスクマネージャーの任命
医療安全管理を推進するための中心的役割を果たす医療安全管理者(チーフリスクマネージャー)を選任し、各部署より選ばれたリスクマネージャーと連携を図るものとする。
2)リスクマネージャーの任務・機能
医療現場と委員会との橋渡しとして機能するとともに独自に医療安全管理サーベイランスを行い委員会に対策を諮問する。
- リスクマネージャーは医療安全対策委員会のメンバーとする
- インシデントやアクシデント等の報告を当事者から受け「委員会」へ報告する。当事者へ報告書の提出を励行するとともに、その記載・提出方法について指導する。
- 委員会で検討された情報を現場へフィードバックする
- 現場での分析・検討・検証・対策立案・部門別マニュアル作成の中心となる。
- 現場での対策・マニュアルを委員会に報告する。
- 医療事故防止方法および医療体制改善方法についての検討・提言を行う。
- 現場でのリスクマネージメント教育に努める。
3)インシデント・アクシデント報告制度
1)インシデント・アクシデント報告制度
本院内で発生するインシデントやアクシデント事例について情報を収集し、委員会へ報告するために各レポートによる報告システムとする(様式は別途)。それぞれのレポートの提出にあたっての分類は表1に基づき判断し、判断しかねる事例については医療安全対策員会に問い合わせることとする。なお。患者から抗議を受けたケース、医事紛争に発展する可能性があると考えられる場合などの警鐘的意義が大きいと考える事例についても報告するものとする。
2)レポートの報告ルート
各レポートは、各部門の長あるいはリスクマネージャーを経て、医療安全管理者に提出する。
3)報告
インシデントやアクシデントに遭遇した場合は。まず患者へ処置・対応を行った後、上席者など関係者に対し速やかに口頭で報告し指示を仰ぐものとする。その後、インシデント・アクシデントレポートを提出する。ただし、アクシデントレポートについては、原則24時間以内とする。報告にあたっては、報告の是非を当事者のみで判断せずリスクマネージャーと相談する。第三者が発見した事例も当事者に報告を勧める。その場合本院では、当事者および第三者の発見者双方に報告をするように働きかける。特に医師の報告については、すべての医療行為が医師の指示によるものであること、その最終責任を負わされること、医療の中に潜む数パーセントのリスクや不可抗力に対しても責任をとらなければならないこと等に対する不安などがあるが、医師が率先して医療安全管理に取り組まなければ医療の質の向上は望めないことに留意する。
4)インシデント・アクシデントレポートの活用
インシデント・アクシデントレポートは、事例検討を形骸化させず改善勧告できるよう委員会は月1回の開催とする。なお、再発を防ぐためにも緊急性を要する事案については、定例開催の委員会以外に臨時に各委員会を開催・検討し、現場へ改善の勧告を行う。委員会で分析、検討された内容は現場にフィードバックし、現場で対策を立案、部門別マニュアル化し実践する。また、作成された部門別マニュアルは必ず委員会へ報告、委員会でも再度検討する。インシデント・アクシデントレポート、議事録、事例集などの開示は重要であるが、個人情報の取扱いに十分留意し厳重に管理する。なお、レポートは医療安全対策委員会で保管、情報の開示および管理を行う。情報開示についての最終判断は病院幹部が行う。
2008年4月 作成
2012年4月 改訂
2013年4月 改訂
2015年4月 改訂
2017年4月 改訂
2019年4月 改訂
2022年4月 改訂
2024年4月 改訂