近年日本人の胃癌発生率は減少傾向にあると疫学上言われています。また、年齢調整罹患率と死亡率の年次推移における減少比は1970年台後半以降両者の乖離が顕著になりわが国の胃癌医療の進歩が胃癌死亡の減少に寄与している証拠であるとされています。このことは最近のわが国の早期胃癌の発見頻度がきわめて高いことからも予測されます。以前は、わが国の胃癌治療は開腹手術が中心であり2群リンパ節郭清を伴う胃亜全摘または全摘が多くの症例に行われておりました。

ところが、近年の早期胃癌の増加に伴い、さらに機能温存の考えからも治療法の縮小化が試みられていました。そこで問題となるがリンパ節転移ですが、最近では過去の多数の手術例のデータ解析により、リンパ節転移の無いまたは可能性の極めて低い胃癌が明らかになりました。これにより、安全にリンパ節郭清の省略あるいは縮小が可能となり、2001年に日本胃癌学会より提示された胃癌治療ガイドラインにその適応が示されました。これによると、リンパ節転移の可能性がほとんど無い胃癌(2cm以下の肉眼的粘膜癌かつ組織型は分化型かつ陥凹型ではUL(-))には内視鏡的粘膜切除(EMR)が適応とされています。

また、リンパ節転移の可能性が低いがEMRの適応とならない早期胃癌(EMR適応外の肉眼的粘膜癌、肉眼的リンパ節転移の無い粘膜下層癌)、さらに肉眼的1群リンパ節転移であるが2cm以下の早期胃癌(2群リンパ節転移の可能性が極めて低い)は縮小手術の適応とされています。当院においても胃癌治療ガイドラインを遵守し胃癌治療を行っています。

最近、EMRはさらに適応を拡大(2cm以上の分化型粘膜癌)することが試みられ、EMRの発展した手技として切開・剥離法(endoscopic submucosal dissection:ESD)が広まりつつあり、当院でもすでに行っています。縮小手術のなかでは最近の技術として低侵襲手術とされる腹腔鏡下手術(laparoscopy-assisted distal gastrectomy:LADG)が試みられています。

LADGはガイドラインのながでは研究的治療としての位置づけですが、2002年度の保険診療報酬に収載され、有望な手術法として積極的に施行する施設が増加しています。私は昭和大学時代にLADGを1999年に開始後、現在までに術者・指導助手として202例(術者として103例)経験し、経験し、さらに2005年より開始された日本内視鏡外科学会の技術認定(胃部門では受験者81名、合格率49%、胃癌については公表されていないがさらに少ない)を取得し、当院でもすでに患者様への充分なインフォームドコンセント後に行っております。LADGの詳細は後述いたします。

LADGの低侵襲性としては術後の炎症所見の回復が早いこと、そして傷が小さいことから術後の腸閉塞の合併がきわめて少ないことも挙げられます。また、この手術の患者様からの評価はアンケート調査により、「満足度」は平均4.8点(5点満点)、「他の患者様に勧める手術か」の問については全員が「勧める」と5点満点の評価をしています。

もちろん現在までに再発例はありません。今後も早期胃癌手術については積極的に低侵襲かつ確実な医療を続けていく方針です。なお、今回は早期胃癌の治療についてお話いたしましたが、進行胃癌に対する定型手術さらに拡大手術、また癌化学療法も積極的に行っております。胃癌治療につきましてはどうぞお気軽にご相談ください。また、胃癌のみならず胃疾患についてはどうぞお気軽にご相談ください。

これからも積極性のある医療を追求し、かつ患者様に優しい医療を続けていきます。

腹腔鏡補助下幽門側胃切除(1)

  • 左上:
    トロッカーは5本腹腔内に挿入、臍下よりカメラを挿入し頭側に配置したモニターに画像を写す。術者は患者の左側、助手は右側に立つ。
  • 右上:
    幽門下リンパ節(No.6)の郭清。右胃大網静脈(RGEV)は前上膵十二指腸静脈(ASPDV)分岐部で剥離し切離する。
  • 左下:
    幽門下リンパ節(No.6)の郭清。右胃大網動脈(RGEA)は胃十二指腸動脈分岐部で剥離し切離する。
  • 右下:
    膵上縁リンパ節(No.7, 8a, 9)の郭清は十二指腸を切離せずに行なう。脾動脈(SPA)周囲も一部郭清する。(CHA: 総肝動脈)

腹腔鏡補助下幽門側胃切除(2)

  • 左上:
    膵上縁リンパ節(No.7, 8a, 9)の郭清終了像。(LGA: 左胃動脈, LGV: 左胃静脈)
  • 右上:
    すべてのリンパ節を郭清終了後、上腹部に5cmの小開腹を置き、胃を切除し再建する。
  • 左下:
    手術終了時創部。
  • 右下:
    手術1年後創部。