外科学教室に入局して3年目、肝胆膵外科の丁稚奉公に励んでいたある日のことです。

78歳の男性が黄疸、発熱、意識障害を呈し来院、緊急入院となりました。血圧も低く尿量も少なくDOAを開始しながら腹部超音波検査を施行、胆嚢の腫大、肝内胆管ならびに総胆管の拡張を認めました。Reynoldsの五徴を呈した急性閉塞性化膿性胆管炎(AOSC)と診断され、緊急胆道ドレナージが必要と判断されました。放射線科に依頼しましたがX線透視室はいずれも他科が検査中でしばらく使用できないとの返事でした。

オーベンは十二指腸ファイバースコープを用意するとベッドサイドでX線透視を全く用いずに内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)を試みました。数分後にはドレナージチューブからワイセガーレが吸引され、総胆管結石嵌屯による下部胆管閉塞は解除されました。当時の閉塞性胆管炎の治療は経皮経肝胆道ドレナージがほとんどでしたから、無透視でのENBDには本当に驚きました。

以前より先輩たちが消化器内視鏡カンファレンスで癌の深達度診断に熱い議論を交わしている姿を目のあたりにし、いずれは内視鏡を学びたいという思いはありました。実際、消化器疾患を扱ううえで外科医が内視鏡を学びその手技に精通することは大きな意義があります。多くの症例で時間のロスなく診断から治療までが完結出来るメリットがあるからです。

ことに胆道癌や膵臓癌といった症例では症状がでたときはすでに進行癌がほとんどですから、的確な診断のもと、いかに早く処置や手術を開始できるかが治療成績を大きく左右します。この日を境にして内視鏡は必須の手技と強く思うようになりました。

2.治療内視鏡と問題点

治療内視鏡とは文字通り内視鏡を用いた治療一般を指しますが、内視鏡的治療と内視鏡下手術に大別されます。図1は当院で使用している電子スコープ(EIVIS Q240オリンパス社製)で、非常に繊細で鮮明な内視鏡画像が得られます。

内視鏡的治療はこのスコープの鉗子孔から、生検鉗子、スネア、クリップなどの処置具を出して行います。内視鏡下手術はスコープを腹腔内や胸腔内に挿入し、その観察のもとに手術を進めます。


図2は腹腔鏡下虫垂切除術を行っているところで、テレビ画面には、虫垂をまさに超音波メスで切除する瞬間が写っています。

人はみな痛いことが大嫌いですから、患者さんが癌と診断され代替療法に頼りたくなる気持ちは充分に理解できます。すべての患者さんにとって、手術せずにあるいは大きく開腹せずに、癌や胆石などの治療ができる消化器治療内視鏡は、まさに低侵襲外科の代表選手として拍手喝采と言えるでしょう。

さらには体力低下や臓器障害といったハンディキャップを抱えている高齢者にとって唯一の治療法となる可能性もあります。


図3は当院で施行している主な内視鏡的治療、内視鏡下手術です。昨年度の内視鏡的治療総数は183件で内視鏡総件数790件のほぼ10%以上になります。一方で、偶発症という大きな問題点もあります。

日本消化器内視鏡学会でおこなった消化器内視鏡関連の偶発症に関する第3回全国調査報告(2000年3月)によるとポリペクトミー0.140%粘膜切除術0.226%、乳頭括約筋切開術は最も高率で0.679%約200件に1件の割合と報告されています。

また医療の倫理も大きく変化し医師が良い適応と判断しベストを尽くした場合でも患者さんに満足が得られないと医事紛争に繋がる可能性もあります。われわれは、充分なインフォームドコンセントを得るとともに、常に処置具を含め優れた内視鏡器具を選択する努力を怠らず、後述するように前処置にも細心の注意が払うよう心がけています。

3.内視鏡的治療の実際

日常の診療でも、内視鏡的ポリープ切除術はお腹を切らずに癌を切除できるすばらしい方法です。と説明しても内視鏡検査自体に恐怖心を抱き、躊躇される患者さんが沢山いらっしゃいます。世の中では、内視鏡検査は患者さんの苦痛や忍耐にうえに成り立った非常に怖い検査と思われていることを今一度認識しなければなりません。前処置の前に最も重要なことは被検者への思いやりであることは言うまでもないでしょう。

緊張のなかでの検査は、咽頭反射も強く腸管運動も亢進するため、検査時間も長くなり患者さんの苦痛を増強する悪循環となります。とくに高い精度を要求される内視鏡的治療においては適切な前処置は不可欠と言えます。当院では基本的に咽喉麻酔後、ブスコパン1Aペンタゾシン7.5mgを靜注しドルミカム1~5mgを併用します。前述の日本消化器内視鏡学会第3回全国調査では前処置に伴う偶発症0.0014%と報告されていますが、当院では症例により薬剤量を減量する、全例にパルスオキシメーターを使用するなど充分な対応を行っています。

ポリペクトミーは最も広く行われている内視鏡的治療です。ポリープとは胃腸の隆起性病変の総称ですが、これを内視鏡の鉗子孔から出したスネアで絞扼し高周波電源装置で切除します。図4のように茎の部分が長くない場合には、穿刺針を用いインジゴカルミン添加50万倍ボスミン生食水を粘膜下層に局所注入し病変を持ち上げ切除し易くします。ポリペクトミーの応用が粘膜切除術です。


平坦~陥凹病変あるいは正常粘膜を含めて切除する場合この粘膜切除術を行います。まず病変の後方が充分膨隆するようボスミン生食水の粘膜下局所注入を行い病変部が頂点となる人工的なポリープを作成しスネアで切除します(図5,6,7)。

人工的ポリープの出来不出来がこの治療手技のポイントとなります。平坦~陥凹型早期癌症例で粘膜下局所注入しても周囲の正常粘膜のみが膨隆し病変が持ち上がらない場合は粘膜下への大量浸潤癌である可能性が高くnon-lifting sign陽性と診断され粘膜切除術の適応から除外されます。



術後の後出血・穿孔の防止には図8のように内視鏡的止血術に用いるクリッピング法による粘膜縫合閉鎖が非常に有用です。また粘膜切除術では切除する臓器や症例に応じ安全容易に切除できるようスネア以外にキャップなどのデヴァイスを併用します。

食道の粘膜切除術では図9のEMMRチューブを用いています。図10のように早期食道癌の診断にはヨードによる色素内視鏡が不可欠です。当院の食道早期癌治療の基本的戦略は

  • 喫煙の有無をなどふまえ基本的に50歳以上の症例は極力色素内視鏡を施行する。
  • 10mm以上の不染帯は必ず生検診断を施行する。
  • 直径30mm高さ1mmまでの不染帯は積極的にEMMRチューブを用い切除する。

以上の3点に集約されます。本症例は粘膜上皮内にとどまる最も早期のep癌で完全切除されました(図11)。


4.内視鏡的胆管膵管造影法と治療

内視鏡的胆管膵管膵造影(ERCP)は1969年6月癌研究所付属病院外科の高木国夫先生が初めて成功して以来、肝胆膵外科領域の微細診断に大きな役割を果たしてきました。近年、Helical-CT、MRCPといった間接造影法の発達あるいはERCP後膵炎などの偶発症の発生が多いことから診断的ERCPの検査件数は全国的にも減少していますが、ERCPを用いた治療内視鏡の必要性はますます増加し、日本消化器内視鏡学会第3回全国調査報告でもESTの件数は前回調査の1.5倍に達しています。

症例を供覧します(図12)。

85歳女性。ERCP像で胆嚢および総胆管に多数の結石がみられます。はじめにご紹介した症例と同様、Charcotの三徴を呈したAOSC症例です。

胆管炎は放置すると敗血症を併発し致死的になることもたびたびです。ENBD(図13)を施行し黄疸の改善をはかった後EST(図14)を行いました。

EST後は胆管口が確認され、小さな石の破片が流出します。総胆管に残存した大きな結石は胆管から取り出せませんから、必要に応じ機械的砕石鉗子等で砕石した後バスケット鉗子を用い(図15)切石術を行います。

結石の数が多い場合、患者さんへの過大侵襲をさけるため内視鏡的逆行性胆道ドレナージを併施し切石術を数回に分けて行います。この間、検査後2-3日の病状が安定していれば必ずしも継続入院の必要はありません。短期入院を繰り返すことで、高齢者のせん妄、下肢筋力低下を防止することも可能です。

この症例では胆嚢結石に対し後述する腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行後退院となりました。


5.内視鏡下手術

図16は当院で使用している内視鏡下手術機材および鉗子類です。1987年フランスのMouretが婦人科の腹腔鏡下手術に胆嚢摘出術を併施して以来、今日では腹腔鏡下胆嚢摘出術(図17)は胆嚢結石症に対する治療のGolden standardとなりました。

腹部に開けた孔(ポート)から腹腔内の視野を得るために二酸化炭素を送り込みながらテレビモニター下に鉗子類を用い手術を進めます。最終的にはポートから胆石ごと胆嚢を取り出して手術は終了です。その他の領域でも内視鏡下(補助下)手術は広く普及し多くが標準手術となっています。


当院では、胆嚢摘出術の他に虫垂切除術も原則として全例腹腔鏡下に行いますが、超音波メスは極めて有用で必須の器材です。いずれの手術でも通常術後第3病日には創部痛は明らかに軽減します。最近積極的に行っている反復性の腸閉塞症に対する腹腔鏡下癒着剥離術です(図18,19)。

矢印のように10mmのポートを3ヶ所置き、開腹創 に癒着している腸管を側面から観察しながら剥離することができます。この3年間に11例を経験しいずれも良好に経過し、最も早く退院された方は、術後4日目でした。

6.おわりに

今回、田園調布医師会平成会第19回学術講演会の内容を整理し、代表的な内視鏡的治療手技とその留意点を中心に報告しました。

内視鏡治療は、その適応を考慮することにより低侵襲であるとともにそれだけで完結した治療法となりうる、患者さんにとって非常にメリットの多い治療法です。今後とも研鑚を重ね、より多くの患者さんに満足の得られる治療をめざし手技の工夫・開発に励みたいと思います。

稿を終わるにあたり、いつも遅くまで笑顔で私をサポートしてくれる田園調布中央病院内視鏡スタッフの皆さん並びにこの機会を与えていただいた平成会会長沼部聖先生にあらためて深謝いたします。